下目黒日録　1月6日

　ひと時のかづ屋において中国人スタッフの占める比重は大きかったと思います。
　最初に勤めたのが現在上海在住で元旦に電話をくれた李さんです。それから人手不足になるたびに李さんの伝手で中国人スタッフが増えてきました。李さんは人格・知性ともに優れた人物で、短い期間の間に私との間に信頼関係が築けました。その彼の導きで入店した中国人も、類は類をよぶのたとえのごとく人間的に立派な人物ばかりで、日本人従業員との関係もすこぶる良好といえました。こうしてかづ屋と中国人スタッフとの蜜月時代が何年か続くこととなりました。
　しかし2002年に李さんが帰国した後、初期の中国人スタッフも徐々に帰国し、すっかりとそのメンバーは入れ替わってしまいました。その彼らの資質は以前とはかなり異なる面々とあいなり、私や日本人従業員との関係も随分と変化してきました。彼らはけっして悪辣な人物とはいえませんが、知性や倫理観に欠けるところがありました。性質はいたって素朴で愛嬌のある面々だったとおもいますが、信頼するにたる人たちではなかったようです。人間関係の繋がりでスタッフを雇って行く場合、その起点になる人物の資質がそれに連なる面々と同じ類いになるのでしょう。そんな中国人も徐徐に減っていき、一人もいなくなりました。
　しかしそれ以前の中国人との蜜月時代は今思い出しても胸が熱くなります。
　当時の私の気持ちは例えて述べるならば、「もしも私が戦場へと挑まなくてはならない場合になったならば、その一番過酷となるであろう戦いには必ず李さんを伴う」と表現したいです。それほどの信頼を彼に寄せていたといえるでしょう。おそらく今までの人生、日本人を含めて供に働いてきた人々の中で一番心が繋がっていたのは李さんだと思います。国籍が異なり、言葉も深い感情を表すほどには熟達してはいませんが、お互いを信頼する強さは強固であったといえます。